所信表明

かわろう! 大阪大学

<はじめに>
 大阪大学のみならず、国立大学にはずいぶんと以前から変革が求められています。しかし、独立法人化されてすでに17年たった今も、なかなか思うにまかせず、むしろ閉塞感が高まっているような状況です。そのような現状を打破し、明るい大阪大学を目指すべく、総長選考に立つことを決意いたしました。
 わたしの目標は大阪大学の総長になることではありません。みなさんの力をお借りして大阪大学を改革していくことです。もし総長になることができれば、以下の5つのテーマを実現していきます。

<5つのテーマ>
あたらしい大阪大学へ! 5つのテーマにはメインとなる三本の柱があります。それは、①部局間の垣根を低くして「知の共有」を促進すること、②真に学生のことを考えた「教育の復権」をもたらすこと、そして、③大学の活性化を目指した「若手大学人の育成」をおこなうことです。そのために ④「生産性の高い組織」を構築し、さらに、⑤女性教員比率向上のためのクォータ制などを積極的に取り入れて「あたらしい大阪大学へ」と大きく改革していきます。

① 知の共有

 大学が有する最大の資産は「知」だと断言できます。個人の知が最小単位であるとすれば、それが共有されることにより、研究室、専攻、部局、というようにサイズが大きくなり、次元も高くなっていくはずです。しかし、現状では、残念ながら、部局単位まではともかく、それ以上のレベルにおいて、知があまり有効に共有されていない、活かされていないのではないかと憂えています。
最大の理由は、大阪大学のみならず、日本の大学における大きな問題である部局間の壁の厚さと高さです。また、いたしかたないことですが、大阪大学では、キャンパスが離れていることもあって、文理の隔たりも相当に大きいと言わざるをえません。せっかく日本有数の総合大学であるにも関わらず、もったいないことです。
 大型災害や新興感染症など社会における諸問題に対処するには、自然科学だけでなく人文学や社会科学の必要性も高いことが強く認識される時代になりました。真の意味での知の共有を進め、大阪大学全体を優れた「知の集合体」にするため、あらゆる壁を可能な限り薄く低くすべく、最大限に努力いたします。
 また、教員間のみでなく、事務の方々をはじめとするスタッフや外部の人たちとの知の共有も積極的に推進します。さらには、②の「教育の復権」とも関連することですが、学生に教えるというだけでなく、学生から学ぶという姿勢も忘れず、大学全体としてダイナミックな知の共有を目指していきます。
 こういったことは、部局の再編といった大がかりなことをおこなわずとも、みんなが意識を変えれば始められるはずです。大阪大学のさまざまな階層の構成員が、自由な発想に基づき、部局などの壁を超えたチームを形成し、多様性に富んだいくつもの「知の共同体」を構築する。そこから十分な発信をおこなうことができれば、社会における大阪大学のプレゼンスが自ずと高まっていくと確信しています。

② 教育の復権

 大学の二大ミッションは研究と教育です。大阪大学が日本で有数の大学であると位置づけられるのは、高い研究レベルを誇っているからだけではありません。それに加えて、毎年、優秀な学生が入学してくれるためであることも認識しておくべきです。教員人事が主に研究業績によっておこなわれるためでしょうか、残念なことですが、ともすれば研究に比較して教育は軽視されがちです。
一生懸命勉強して輝くような目で大阪大学へ入学してきたのに、勉学の意欲を失っていく学生がいるのは悲しいことです。そのような状況にあまりに慣れすぎてしまっているために、ともすれば日本の大学というのはそういったところなのだと考えてしまいがちです。しかし、どう考えてもおかしなことです。このような悪しき状況を打破するには、知識を詰め込む教育、あるいは、解答がすでに用意されている問題を解くための教育ではなく、主体的に学ぶ楽しみと喜びを得ることができる教育に軸足を移していく必要があります。
 昨年度、新入生の必修科目である全学共通教育機構の『学問への扉』を開講し、試行錯誤でそのようなチャレンジをおこないました。正直なところ、始めるまではそれほど乗り気ではなく、あまり期待もしていなかったのですが、学生たちは意欲的に取り組み、楽しみ、そして、見違えるほど成長してくれました。あまりに驚いたので、その内容をまとめ、新書として上梓したほどです。その本の最後は「若者に、そして、教育に未来を見た」という言葉で締めくくりました。嘘偽りなく実感したことであり、教える側がこういった気持ちになれるような教育をおこなうべきだと考えるにいたりました。相当な年月がかかるかもしれませんが、そのような教育を提供できれば、将来的な「若手大学人の育成」にも大きく寄与するはずです。
 学部を超えた単位の修得や、教教分離による横断的なカリキュラムの制定、リモート講義を利用した教育の充実、オンデマンド制を用いた授業時間にとらわれない柔軟なカリキュラム、ダブルディグリーの推進などにも取り組んでいきたいと考えています。新型コロナ感染症で多くのことを経験した今こそが、教育を復権させる大きなチャンスではないでしょうか。さらに、こういった取り組みにより、「教育の復権」だけでなく、「知の共有」も一層促進されていくと考えています。

③ 若手大学人の育成

大学が担うべきもうひとつの重要な役割は、次世代を担う人材の育成です。まず第一歩として、優秀な人材を大阪大学に集める必要があります。そのためには、日本中の若手研究者に「大阪大学で仕事をしたい」と思ってもらえる魅力ある場にしなければなりません。「知の共有」による知的刺激はその一助になるはずです。しかし、そのような刺激だけでは不十分で、若手研究者が活き活きと活動できるようにサポートするシステムが必要です。具体的には、真の大講座制とテニュアトラック制を大規模に取り入れていきたいと考えています。
 10年ほど前になりますが、医学、歯学、薬学、理学、生命機能、蛋白研の6部局が参加するテニュアトラック制度「大阪大学生命科学研究独立アプレンティスプログラム」の責任者を務めました。その経験から、若手研究者が独立して研究をおこない次のステップに進むにはテニュアトラック制が最適であること、また、その効率的な運営には大講座制が優れていると確信するにいたりました。
 メンターによる指導が必要なのは当然ですが、それ以上に重要なのは、同じようなポストについている仲間たちであることを痛感しました。そのために、学内外から「大阪大学には優れたテニュアトラック制度がある」と認識してもらえる規模での導入、さらには、それを支えるインフラとしての大講座制の構築をおこないます。附属病院など特殊な事情がある部局以外に全学的な導入をおこない、自由な発想で伸び伸びと活躍する若手研究者が仲間意識を持って切磋琢磨してくれるようになれば、自ずと大学全体に活気があふれてくることでしょう。また、大学院博士課程に進学する学生数の減少が問題になってきています。これも、テニュアトラック制により活き活きとした若手研究者のロールモデルが身近に提示されれば、若者の大学離れを食い止めることができるのではないかと考えています。
 さらに、大学の運営には、教員だけでなく、事務をはじめとするスタッフの力も重要です。教員に対しても臆せず積極的に意見を言い、協調して仕事を成し遂げていける若手スタッフの育成も並行して推進してまいります。

④ 生産性の高い組織

 話が大きくかわります。はたして、上記の ①~③を実現することができるかどうか。それは、時間の使い方に大きく左右されるはずです。忙しすぎる、お金がない。大学人の口から漏れ出てくる大きな愚痴はこのふたつに集約されるでしょう。持ち時間は有限ですし、よほど潤沢な資金調達ができない限り、理系では研究費が十分ということはなさそうです。
 大学として外部資金などの獲得に最大限の努力を払うべきであることはいうまでもありません。しかし、それとて限りがあります。それに、忘れてはならないのは、資金の獲得とトレードオフのようにして時間が費やされていくことです。ミヒャエル・エンデの『モモ』ではありませんから、「時間どろぼう」に盗まれた時間を取り戻すことなどできはしません。
 数字として見えやすいからでしょう、資金を獲得することばかりに目がいって、時間の有効利用は忘れられがちです。誰もが、大学というところはいろいろな面で時間が無駄に消費されることの多い場であると感じておられるのではないでしょうか。しかし、不思議なことに、それを積極的に解消しようという動きはあまり感じられません。
 たとえば会議です。報告事項が延々と続く会議など意味がありません。各自が資料を読めば済むことです。それなら時間のすき間にできますが、会議となるとわざわざ時間をとらなければなりません。そんな無駄な時間を削ると、おそらく会議の時間は四分の三程度に圧縮できるでしょう。また、たいした議論のない会議や委員会などメール審議で十分ですから、会議の数を四分の三程度に減らすこともできるでしょう。両者は掛け算で効いてきますから、これだけで会議の総時間を6割以下に削減することが可能です。
 他にも減らすことのできる無駄がたくさんあるはずです。そういった無駄をなくして捻出できた時間の1割でも2割でもいいから「知の共有」にあててもらえたら、とても嬉しいことです。フォーマルでなくとも、他部局の人たちと何気ない話をするだけでもかまいません。そうすれば、部局の垣根が自然と低くなっていくはずです。そのような場を少しでも数多く提供できるように画策していきます。
 大学がすこしも変わらないのは、みんなが忙しすぎて中長期的なことを考える余裕がなくなっているから、という面もあるのではないでしょうか。ひとりひとりが考えること、できることは小さくとも、大学の将来に向けて「知」を柔軟に共有できれば、大きなうねりとなって改革につながる。わたしはそう信じています。

⑤ あたらしい大阪大学へ

 ①~④に書いたことだけでなく、いろいろな改革をおこなっていかなければなりません。たとえば女性教員比率です。大阪大学を含め、多くの大学が30%という目標を掲げながら、達成できているところはほとんどないようです。
 スターウォーズで、ヨーダがルーク・スカイウォーカーに語る言葉があります。“Do… or do not. There is no try.”「やるかやらないかだ。やってみるなどない」と訳されているようです。いまや女性教員比率の引き上げに反対の方はおられますまい。そうです、「やってみる」ではなくて、「やる」しかないのです。これまでどうして導入されなかったのか理解できないのですが、学部の男女学生比率を勘案したクォータ制により、女性教員比率の引き上げを敢行します。
 かつて「あたりまえ」だと思い込んでいたことが、時代とともに、あたりまえではなくなってきています。大学は時代の先頭に立つべき存在であるにもかかわらず、そういった流れに乗り遅れているように思えてなりません。かといって、すべてを否定し、変えてしまうというつもりは毛頭ありません。
 大阪大学の執行部は多くの課題にうまく対処してこられたと敬意を表しています。現在おこなわれていることについてはフラットに見直し、ゼロベースで評価するつもりにしていますが、戦術的なレベルでは継続すべきことがほとんどであろうと考えています。しかし、一方で、戦略的な面での物足りなさを強く抱いています。でなければ、総長選に立とうなどとは考えません。
 他の大学に先駆けて大阪大学を改革していきたい。そして、明るく活き活きとした、ビジブルな大阪大学を築き上げていきたい。そのためには、なによりもみなさまのご協力が必要です。

<運営の方針>
 執行部の力だけで大学が変わりうるものならば、とうの昔に改革がなされていたことでしょう。しかし、そうはなっていません。何よりも必要なのは、より素晴らしい大学に変わることができる、という意識を持って、ひとりひとりが行動することです。上記の五つのテーマを達成するために、「先進的であれ」、「挑戦的であれ」、「実験的であれ」、「オープンであれ」、「公正であれ」という五つの旗印を掲げ、ご協力を仰ぐことができればと考えています。
 女性教員比率や制度改革など、大学には問題が山積みです。もちろん、多くの問題を一気に解決できる魔法などありはしません。しかし、ひとつずつ確実に「やる」ことは可能だと考えています。たくさんのことを同時に「やってみる」のではなく、たとえば、まず女性教員比率の引き上げをおこなう、テニュアトラック制を導入する、など、ひとつずつを確実に「やる」。そうして一歩ずつでいいから着実に大学を変えていく。その結果得られた「大阪大学は変われる」という成功体験に基づき、みんなが「かわろう!」という意識を持つ。それこそが大阪大学に改革をもたらす最短距離である。この信念をもって運営に取り組む所存であります。
 現執行部も含め、歴代執行部は、その時点において最善の選択に基づいた運営をおこなってこられたはずです。ただ、ある時点において最善と思われた施策であっても、年数が経ち、機能しなくなってしまったものがたくさんあるように見受けられます。喩えが悪いかもしれませんが、増改築を繰り返した老舗温泉旅館のようなものかもしれません。どう考えても、全体を俯瞰したリモデリングが必要です。
 リモデリングには局所的な痛みを伴うこともあるでしょう。しかし、大学にとって厳しい環境は当分の間続きそうです。そのような時代、部局単位ではなく、国立大学法人大阪大学としてよりよい全体像にしていく必要がある。それを、上記の5つのテーマと運営方針でやりとげることができればと考えております。

<おわりに>
 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。もしかすると、楽観的にすぎると感じておられるかもしれません。わたし自身は、十分に可能なことばかりだと考えています。それよりも、こういったことを、構成員みなが真剣に考え、取り組み、実現していかなければ、大阪大学の発展は望めないのではないかと考えています。他の国立大学法人に先駆けて思い切った改革に取り組む。そして、他の大学が、大阪大学のシステムを参考にして改革を開始する。それがわたしの描いているおおきな夢であります。
 ここに書き切れなかったことは、このホームページにおいて発信し続けていきます。まずは、どのような候補者であるかを知ってもらいたいというのが、ホームページを開設する理由です。また、こういった情報発信が十分になされていないのが、今の大阪大学における問題点ではないかということも、もうひとつの大きな理由です。
 そのホームページでは、これまでどのような経験を積んできて、どうして総長選考に立とうと思ったか、また、日常生活でふと思ったことなど、コラムを連日投稿していきます。また、「対話の部屋」を設けておりますので、ぜひ、ご質問や、もっとこうしたらいいのではないかという大学改革のアイデアなどをお寄せください。できる範囲内でお答えしていくつもりです。
 このようなコミュニケーションやそれに基づいた合意形成が、あたらしい大阪大学をつくりあげていくために必要だと考えています。もちろん、そのための努力は惜しみません。ちいさなことですが、こういったことの積み上げこそが、大阪大学を、風通しのよい、明るく活き活きとした大学にするために大事であるという信念をもっております。ぜひ一度、ホームページをご覧いただけましたら幸いです。

以上、すこし長くなりましたが、大阪大学総長選考へむけての所信表明とさせていただきたく存じます。ご支援を賜れますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。