2021-05-21

所信表明演説原案・その2

所信表明演説原案の第二回目は「教育の復権」と「生産性の高い組織」についてです。この二点は他の候補がほとんど触れておられないことから、差別化を図るという意味で特に強調したかったところです。実際の演説では、岩波新書からの引用は、時間の都合でうんと圧縮。ツーセンテンスぐらいにしました。

まずは、「教育の復権」です。大学は一義的には教育が重要と考えるべきです。にもかかわらず、必ずしもそうなっていないのではないでしょうか。先のお二方の演説でも、あまり触れられなかったようです。それはおかしくないでしょうか。

昨年度、新入生対象の『学問への扉』、マチカネゼミを開講しました。テーマを決めて、情報を集め、考え、ディスカッションし、プレゼンと論文を仕上げる、というゼミでした。あまり期待していなかったのですが、3ヶ月ほどの間に、経済学部、工学部、外国語学部から参加した14名の学生たちは素晴らしい進歩を見せてくれました。

これは、指導がよかったというよりも、お互いの切磋琢磨が最大の要因と考えています。あまりに素晴らしかったので、『考える、書く、伝える 生き抜くための科学的思考法』として上梓いたしました。この本の最後は「若者に、そして、教育に未来を見た」というコメントで締めくくりました。嘘偽りなく、そう感じたからです。

いまや知識を外付けできる時代です。知識ではなくて、考える力をつける教育にシフトすべきです。また、オンデマンド教材などを活かして、他学部の科目を履修するなど、いろいろな工夫も可能です。そのための細かな方策については、時間の都合でお話しできませんが、『かわろう! 大阪大学』のコラムに書いてありますので、ぜひご覧ください。

教育の義務が増えるのではないかと考えられる先生がおられるかもしれませんが、むしろ逆になります。学生に考えさせる時間を増やしたり、オンデマンド教材を用いるのですから、教える時間はむしろ減少します。これは、次に述べる、生産性の高い組織にもつながります。そんなことをしたら学生が怠けるのではないかという心配もあるかもしれません。しかし、ここは思い切って学生を信頼して、こういった教育にシフトすることが重要です。昨年のゼミの経験から、学生たちはそれに十二分に応えてくれると考えています。

次は、生産性の高い組織についてです。これは、大学は、お金、お金と言い過ぎてきたのではないかということに対するアンチテーゼです。もちろん運営にお金は必要です。しかし、それを過去20年間、ひたすら追い続けてきたのが大学の現状です。果たしてよくなったでしょうか?お金と時間は、ある程度、トレードオフの関係にあると考えています。お金をとりにいくと時間が減る。でも、その逆は必ずしも正しくありません。時間があればお金をとりに行けるからです。HPのコラムにも書いたのですが、これからは、『金持ちよりも時間持ち』というように発想を変える必要があると考えています。

まずは、会議や書類を徹底的に省力化する。それから、先に述べたように、考えさせる教育にシフトし、教育義務を減らす。さして難しくないはずですが、これまでなされてきませんでした。クリエイティブな活動に必要なのは、お金ではなくて時間です。そうしてできた時間を使ってさまざまなことを考える。たとえば、次に述べるような「知の共有」に使う。そして、ぜひ、大学の将来について思いをはせてもらえたらと考えています。

所信表明書を書きながら、この点は、まちがいなく他の候補と差別化できるだろうと考えていました。ただ、自分で考えただけなので、正しいかどうか、それほど自信があったわけではありません。しかし、今はそうではありません。それは、この本を読んだからです。

『大学は何処へ』という本で、ごく最近に出版されたものです。著者は東京大学の吉見俊哉教授。国立大学の成り立ちから、その歴史、さらには問題点を詳しく書いてあります。そして、サブタイトルが『未来への計画』とあるように、そういったことを踏まえて考え抜いた末の処方が記されています。じつは、自分の考えと違っていたらどうしようと、ドキドキしながら読み進めました。しかし、それは杞憂でした。あるところを読んで、嬉しくて思わず声を上げたほどです。少し長くなりますが、紹介させてください。

「若手研究者にとってもシニアの教授にとっても、構造改革派にとっても秩序維持派にとっても、さらに学生たちにとっても、等しく大学で研究や学びに取り組む者にとって最大の希少な資源は自由な時間である。1990年代以降、これほどまでに大学改革の努力が重ねられてきたにもかかわらず、それらが表明した目的とはむしろ逆の結果を生んできたのは、一連の改革が大学という場の時間全体のマネジメント、そのなかでの自由な時間の持続的な確保、それどころか自由の拡張というビジョンを十分に考え抜いてこなかったからである。  -すこし飛ばします-  それは根本的に、大学が時間的自由を創造性の本源とする組織だから、効用性が優先される社会のなかでも、それとは異なる創造性の時間が擁護されなければならないのだ。この点が、一連の大学改革で十分には自覚されてこなかったのである。」

時間がいかに重要であるか、ということが納得いただけましたでしょうか。(つづく)

写真:キリマンジャロの雪、頂上近くの氷河

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