2021-05-12

テニュアトラック制度私案 -「部屋付き親方」と「旗本直参」-

あの頃わたしは偉かった』(5月4日付)で、『大阪大学生命科学研究アプレンティスプログラム』というテニュアトラック制度のリーダーを務めた経緯を書いた。その経験から、日本型のテニュアトラック制度を運営するための特殊性に気づいた。

最大のものは、日本では、テニュアトラック教員を完全独立で運営させるのは難しいのではないか、ということだ。これは私だけでなく、同じくJST(科学技術振興機構)の支援をうけた他の大学の生命系のテニュアトラック制度を担当された先生も同じご意見だった。「半独立」が望ましい。それを、相撲部屋の運営になぞらえて「部屋付き親方制」と、勝手に名付けている。

一般論として、日本の大学には、実験機器などが講座持ちのことが多く、共通機器の充実度が低いという問題点がある。なので、若手による小さな研究室のスタートアップであっても相当な機器を買わねばならず、お金がかかりがちである。しかし、外国と違って、通常、スタートアップ経費はゼロ、あるいは、雀の涙程度しかない。

これを補うために、研究テーマの近い研究室(=部屋)に間借りして研究をおこなう。ただし、研究テーマは研究室の主である「部屋持ち」の親方とは完全に独立させ、自分自身(=部屋付き親方)の弟子は責任を持って指導する、というシステムだ。イメージを抱きやすい、なかなかよさげな命名ではないかと思っている。

このやり方だと、最初に機材を買いそろえなくてもいい。さらに、それ以外にもメリットがある。ちいさな研究ユニットだと、どうしても日々の運営が非効率になりがちだし、人数が少ないので、視点が固着しがちでディスカッションが盛り上がらない。そういった問題点を解消できる。また、研究室の運営方法を部屋持ち親方からじかに学ぶことができる。人文社会科学系の場合は、機器購入などの問題はないかもしれないが、効率やディスカッションの面を考えると、部屋付き親方制のメリットは十分にあるだろう。

物事を改革したくない現状維持派の教授は、つまらない心配がお好きである。このやり方だと、部屋付き親方の業績が部屋持ち親方に盗まれるのではないか、などという反論が投げかけられる。杞憂だろう。まず、いやしくも大阪大学の教授がそのようなケチくさいことをすることはないと信じたい。それに、論文の責任著者を見れば、簡単にチェックできる。こんな低レベルなことを気にしてていては、何も進まない。

「部屋付き親方制」と並行して、「旗本直参制」も導入したい。ずいぶん前に『大阪大学 若手研究者育成ステーション』を設立する時に提案して受け入れられたので、いまも制度として残っているかもしれない。ちゃんと調べてなくてごめんなさい。これは、テニュアトラック教員を部局付けにするのではなく、本部直属にする、というものである。だから、旗本直参。

従来の准教授、講師、助教、すなわち講座に張り付いたポストの教員=家臣と、差別化を図って見えやすくしようというアイデアだ。家臣には家臣のメリットがある。教授=殿のいうことを聞いていれば安泰、いろいろな面で安心だ。ただし、家臣はあくまでもお家付。研究の独立が許されることは少ない。一方の旗本=テニュアトラック教員は、ちょっとリスクを伴うけれど、独立という大きな自由とメリットがある。一長一短だが、将来を見据えれば旗本の方が有望だろう。

テニュアトラック教員にはテニュアトラック教員ならではの悩みや苦しみがある。だから、部局の枠に閉じ込めることなく、お互いにそういったことを分かち合い、切磋琢磨することが重要だと考えている。それも、分野を超えて全学的に、だ。この点については、旗本直参にすればスケールメリットもある。

旗本直参同士、さまざまな分野の若手研究者同士でインフォーマルな意見交換をおこなってもらう、というのも、長い目でみれば大きなメリットになるだろう。今後ますます必要になる、分野を超えた融合研究が芽生えるかもしれない。

そしてもうひとつ、ある程度以上の人数をテニュアトラック教員にして、大阪大学は大々的にテニュアトラック制を導入しています、若手研究者の育成に本気で取り組んでいます、ということを知らしめることができる。任期付きではあるが、常勤に昇任できる可能性が高いポストになるので、若手が非常勤雇用ばかりという問題の解決にもすこしはつながるだろう。さてどの程度をテニュアトラックにするか、は難しいところだが、最終的には5割近くまで持って行ければと考えている。

きっとまた現状維持派からは文句がでる。それでは講座制がなりたたなくなるかもしれない、と。御意にござります。その程度のことはわかっておるのじゃ。なので、まやかしではなく、真の大講座制の導入を並行しておこなう。そうすれば、弊害が大きいとされている旧来からのタコ壺のような講座ではなく、もっと大きな開かれた講座制へと移行していく。一石二鳥だ。

まだまだ詰めるべき点はあると思うが、若手研究者の育成という観点からのテニュアトラック制度の導入、そして、大講座制へ。「大阪大学システム」として確立していきたい。このアイデア、いかがだろうか。

写真:ペルセポリス遺跡@イラン

 

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