2021-05-10

「金持ち」よりも「時間持ち」=学債よりも生産性

日曜日の朝、日本経済新聞の記事を見てちょっとびっくりした。見出しに、『現代人は「引き算」が苦手』とあったからだ(5月9日付け)。分数の計算ができない大学生がいるとか問題になったことがあるので、いよいよ引き算までできない大人が増えたのかと勘違い。

さすがにそんなことはなくて、副題には『労働や環境問題、解けぬ一因』とある。「働きすぎや非効率な仕事、環境破壊」といった問題に直面した時に、「引き算の決断が苦手で、足し算にこだわるから」という論文がネイチャー誌に出たという内容だった。なるほど!大学だって同じような陥穽に陥ってしまっているのではないか。

お金がないからと、やみくもに取りに行く。取れたとしても、どんどん仕事が増えてしまって、何をしているのやらわからなくなることがある。時間をかけたのに徒労に終わることだってある。それでも、お金、お金、お金という人が多い。

国立大学法人は学債を発行できるようになった。東京大学ではすでに発行済みだ。これを聞いた時、さすが東大は勇気があると感心した。本当に償還原資を確保できるのだろうか。大学の収益構造から普通に考えると極めて難しいだろう。大阪大学も格付投資情報センター(R&I)と日本格付研究所(JCR)から債権発行体としての信用格付けを取得したと発表しているから、学債発行が検討されているのだろう。その時に最も気を配るべきは、何に使うかよりも、本当に償還できるかどうかではないのか。

大学に限らず、社会全体であっても、個人であっても、いちばんしてはいけないことのひとつは、後世に負債を残すことだ。なので、学債の発行については、相当に慎重な検討をおこなわねばならないと考えている。返せなくて、大学が破綻に向かうことだってありえるのだ。学債を発行して、教員を増やすことも可能だろう。一時的には潤うかもしれない。しかし、そのツケは確実に後の世代が背負うのだ。それが責任ある態度と言えるだろうか。もうひとつの財源になりえる10兆円ファンドにしても、そのようなリスクがないかどうかをしっかり吟味せねばならない。

日経の記事は「注意すべきは大切なものを引き去らないことだ。重要な何かを見極められたら引き算もしやすいが、それができないから苦労する。」とある。大切なものはいろいろあるだろう。お金もその一つだ。しかし、もっとも大切なものがある。それは時間である。そして、お金と時間はある程度のトレードオフと考える必要がある。

多くの教職員は忙しいと口にする。そして、その「忙しさ」が免罪符のようになっているようなところがある。そういった状況から脱却するには、なにかを「引き算」して時間を作ることが必要だ。自慢するようだが、「先生、そんなにいろんなことをする時間がありますね」とよく言われる。あたりまえだが、誰にとっても一日は24時間だ。どうすれば時間を捻出できるか。

単純なことで、基本的にはふたつしかない。ひとつは無駄な時間を減らすこと、すなわち「引き算」の思想である。無意味なことに手を出さなければいいのだから、簡単なことだ。もうひとつは、仕事の能率を上げること。このふたつを徹底することにより、朝は8時前に開始し、夕方5時には終了することを目標に仕事をしている。

毎日5時にという訳にはいかないが、おおよそ達成、といったところだ。それができるようになったのは、ポモドーロ・テクニックの導入によるところがおおきい。25分、ネットなどを完全に遮断して仕事に集中。そして5分休憩を繰り返すというシンプルな方法だ。書評としてここに詳しく書いたことがあるので、興味のある人は見てほしい。

時は金なり、とはよくいったものだ。「金持ち」ばかりを目指すのではなくて、むしろ「時間持ち」になるべきだ。その方が、はるかに大学は豊かになるのではいか。所信表明に書いた5つのテーマの4番目『生産性の高い組織』、それが大学をよくするベストな方法だと確信している。

写真:エジプト、ピラミッドの麓で

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